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福島家庭裁判所いわき支部 平成11年(少ハ)3号 決定 1999年7月12日

少年 K・J(昭和55.4.9生)

主文

少年を21歳に達するまで中等少年院に戻して収容する。

理由

(申請の理由)

少年は、平成9年11月12日、千葉家庭裁判所松戸支部において、道路交通法違反、占有離脱物横領、暴行、恐喝等の非行により中等少年院送致の決定を受けて八街少年院に収容され、関東地方更生保護委員会の決定により、仮退院期間を平成12年4月8日までとして、平成10年12月1日、仮退院を許され、実母K・K子を引受人として同人のもとに帰住し、以来、福島保護観察所の保護観察下にある者であるが、保護観察の期間中、犯罪者予防更生法34条2項の定める事項(以下「一般遵守事項」という。)及び同法31条3項の定める事項(以下「特別遵守事項」という。)の遵守を誓約したにもかかわらず、

(1)  平成10年12月中旬ころ、あらかじめ、福島保護観察所長の許可を受けることなく、居住すべき住居である福島県いわき市○○町×丁目××の×の母のもとを離れた

(2)  上記(1)のとおり、母のもとを離れた後、自己の居所等を明らかにしないまま保護司との連絡、接触を断ち、保護観察から離脱した

(3)  上記(2)の自己の所在を明らかにしなかった間、千葉県松戸市方面において、友人宅やサウナ、モーテル等を転々とする一方、一時、風俗店でビラ配りのアルバイトをした程度で、これといった職業に就くことをしなかった

もので、(1)の行為は、一般遵守事項4号「住居を転じ、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察を行う者の許可を求めること」に、(2)の行為は、特別遵守事項9号「毎月進んで保護司を訪ね、その指導助言に従うこと」に、(3)の行為は、一般遵守事項1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること」に、それぞれ違反する。

少年は、少年院仮退院後、母のもとに帰住したが、わずか半月足らずで上記(1)及び(2)の各遵守事項違反をなし、保護観察から離脱した上、上記(3)の遵守事項違反に及んでおり、その間の少年の生活状況の実体に照らすと、半年近くにわたり極めて放縦かつ不健全な生活を続けていたものといわざるを得ない。そして、この間、少年が自ら保護観察から離脱したため、保護観察による指導監督及び補導援護を実施することができなかったこと等の経緯を併せ考慮すると、仮に少年が反省の態度を示したとしてもその実行性を期待することはできないというべきである。

さらに、少年の保護者である母は、少年の更生を期して引き受けたにもかかわらず、最近では少年を監護しようとする意欲さえ失い、少年のためには再度の施設収容もやむを得ないと考えている。また、他の親族による監護も期待できない状況にある。

以上のとおり、少年の資質、生活態度、遵守事項違反の程度及び保護者の監護能力等を総合考慮すると、保護観察の継続によって少年の改善更生を図ることは困難であると言わざるを得ず、この際、少年を少年院に戻して収容することにより、再非行を未然に防止すると共に、再び矯正教育を実施して健全な生活習慣を堅固に身につけさせ、併せて受け入れ環境の調整を図る必要がある。

(当裁判所の判断)

1  本件記録及び少年の当審判廷における陳述によれば、申請の理由記載の事実のほか、次の事実が認められる。

(1)  少年は、平成10年12月中旬、母のもとを離れて千葉県松戸市へ行った後、当初は、友人宅で寝泊まりし、パチンコで金を得たり、友人らから援助を受けたりして生活していた。

平成11年2月初旬、風俗店のビラ配りのアルバイトに就いてからは、午後1時から午後11時まで仕事をし、その後、友人らと遊ぶという生活をしていた。

同年4月初旬、上記アルバイトを辞めた後は、金があるときはサウナやモーテルに泊まり、金がないときは○○□□店の店舗付近で野宿していた。○○□□店の開店時間ころになると、4、5人の仲間が集まり、仲間のうちの誰かが万引きしてきた食料品を皆で食べたりした。

(2)  千葉県○○警察署長のもとには、○○□□店の店員等からの、少年の食料品や衣類、書籍等の万引き未遂行為についての苦情や、女子少年の父親からの、「娘が少年と一緒に無断外泊を繰り返すようになり、母親を強要して金品を出させ、ホテルや友人宅に泊まり、不健全性行為を続けている。少年は、時々、夜中に娘の部屋に忍び込み、同衾していることがある。叱っても気にとめる様子もないので補導してほしい。」との相談が寄せられた。

(3)  少年は、無免許で単車に跨り、交番の前で1メートル位動かした。

2  申請の理由記載の事実及び上記の各事実は、申請の理由の指摘する各遵守事項に違反していることが明らかである。

なお、少年は、母のもとを離れた点については、母や叔父から仕事をするように言われたため、仕事を探しに行こうとしたからであり、その際、母の方から保護司に事情を話しておくということであったし、仕事が見つかったら戻るつもりだったと述べ、保護司に対して連絡をしなかった点については、定職が見つかるまでは連絡しにくく、風俗店のビラ配りのアルバイトでは駄目だと思った、そのうちに保護司の名刺を入れた財布を落としてしまって連絡できなかったためであると述べ、保護観察から故意に離脱したわけではないと弁解している。しかしながら、他方で、少年は、財布を落とす前までは、いつでも自分から保護司に対して連絡することが可能であったこと、財布を落としてから、母の携帯電話の番号を知っている知人に会ったが、そのときも自分から連絡しなかったことを認めており、仮に、保護司に連絡ができたとしても、連絡ををすれば親のところへ戻るように言われることになり、自分としては絶対に帰りたくないという気持ちがあったとも述べている。これらの事情を総合すると、少年は、自ら積極的に保護司に対して連絡をする努力をしなかったものといえ、自分から保護観察から離脱したものと評価されてもやむを得ないというべきである。したがって、少年の上記弁解は、各遵守事項違反の事実を妨げるものとはならない。

3  少年は、知的能力の面において大きな制約があるところ、家庭には、それを補うような教育機能が欠落しており、それ以上に親や兄からの虐待や拒否といった心理的外傷体験にさらされ、基本的安定感や信頼感を十分に実感することができずに生育してきた。そのため、少年は、自分の居場所がなく、安らぎも温もりも感じられない家庭を嫌い、中学生のころから不良交友の中に拠り所を求め、その中で精神的な飢餓感を埋め合わせようとしたり、家庭や学校の中で感じた苛立ちや欲求不満を発散させようとしたりしてきた。このような中で、少年の非行は深まり、前件である道路交通法違反、占有離脱物横領、暴行、恐喝等保護事件により、中等少年院送致の決定を受けるに至ったものである。

少年は、仮退院後、わずか半月足らずで帰住先を離れ、保護観察から離脱してしまったものであるが、新たな非行としての立件こそなかったものの、基本的な生活態度が不良である点は従前と同じであって、改善の意欲は希薄であるというほかない。少年は、「保護観察の約束を破って少年院に戻されるなど嘘だと思っていたし、脅しだと思っていた。」等述べるなど、仮退院後の保護観察中という自己の置かれた状況についての認識に欠けるとともに、規範意識の甘さを自ら露呈してしまっている。

少年の父母兄姉は、いずれも多数の前科前歴を有し、現在父、兄及び姉が服役中であるため、少年を指導監督できるのは母のみであるところ、母は、少年の引き取りについて拒否的な態度を示しており、少年に対する監護の意欲を失っている状態である。また、少年も、自分を受け入れてくれず、信用してくれない母に対して強い拒絶感を有している。

4  以上のとおり、少年には、自己の問題点についての認識及び改善の意欲が乏しく、家庭には監護能力と意欲が欠けており、保護観察所による指導も効果を上げられなかったのであって、現状のままでは少年の改善を期待することは著しく困難と認めざるを得ないから、この際、少年を中等少年院に戻して収容し、改めて矯正教育を加え、健全な社会性、勤労意欲、規範意識を養わせることが相当である。そして、収容期間については、少年の抱える問題性からすると、20歳に達するまでの残収容期間での教育では不十分であると考えられるので、仮退院後の保護観察の期間をも考慮に入れ、21歳に達するまでの期間と定めることとする。また、この間に、保護観察所において少年の今後の帰住先についての調整を十分に行うことを期待することとする。

よって、犯罪者予防更生法43条1項、少年審判規則55条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 細矢郁)

〔参考〕 戻し収容申請書

戻し収容申請書

東北委審第×××号

平成11年6月16日

千葉家庭裁判所松戸支部殿

東北地方更生保護委員会

次の者は、少年院を仮退院後福島保護観察所において保護観察中の者であるが、少年院に戻して収容すべきものと認められるので、犯罪者予防更生法第43条第1項の規定により申請する。

1 氏名等

氏名・年齢 K・J(昭和55年4月9日生)

本籍    福島県いわき市○○町×丁目××番地の×

住居    福島県いわき市○○町×丁目××の×

(いわき少年鑑別支所留置中)

職業    無職

2 保護者

氏名・年齢 K・K子(昭和25年10月19日生)

住居    福島県いわき市○○町×丁目××の×

職業    ホテル従業員及び食料品店店員

3 本件保護処分

決定裁判所 千葉家庭裁判所松戸支部

決定の日  平成9年11月12日

4 仮退院に関する事項

許可委員会  関東地方更生保護委員会

許可決定の日 平成10年11月9日

仮退院施設  八街少年院

仮退院の日  平成10年12月1日

5 保護観察の経過及び成績の推移

別紙(1)のとおり

6 申請の理由

別紙(2)のとおり

7 必要とする収容期間

21歳に達するまで

8 参考事項

添付書類

(1) 質問調書(甲)           2通<省略>

(2) 質問調書(乙)           1通<省略>

(3) 引致状謄本             1通<省略>

(4) 少年院仮退院許可決定通知書(写し) 1通<省略>

(5) 面接票(写し)           3通<省略>

(6) 電話連絡記録書(写し)       1通<省略>

別紙(1)

保護観察の経過及び成績の推移

1 平成10年12月1日、少年は、母方叔父らの出迎えを受けて八街少年院を仮退院し、指定帰住地である表記住居の母のもとに帰住した。

2 同月2日、少年は、母方伯母を同伴の上、福島保護観察所いわき駐在官事務所に出頭し、保護観察官から遵守事項の説示を受けるとともに、生活の心得等について指導を受けた。

3 同日、少年は、担当保護司(以下「担当者」という。)宅を訪問し、その際、担当者から、これから困ったことなどがあれば担当者に相談すること等について指導助言を受けた。

4 同月3日、少年が担当者宅に立ち寄り、買い物のための道順を尋ねる等した。

5 同月11日、担当者は少年宅を往訪し、少年に対し就労等について助言した。

6 同月14日、少年が担当者宅を訪問したが、担当者は不在であり、担当者の妻が、直ぐ帰るから待つよう話すが、少年は帰ってしまった。

7 同月15日及び16日、担当者が少年宅を訪問したが、少年及び家族は不在であった。

8 同月17日、担当者が少年宅を訪問したところ、少年は求職すると称して既に東京方面に出掛けてしまっている旨少年の母から説明を受けた。保護観察官は前記の状況について担当者から電話連絡を受けた。

9 同月20日、担当者が少年宅を訪問したところ、引き続き少年は帰宅しておらず、何らの連絡もない旨少年の母から説明を受けた。

10 同月22日、保護観察官は、担当者から少年が所在不明となっている旨の事故報告書を受理した。

11 少年が所在不明となった後、担当者は、保護観察官の指示を受けながら、次のとおり少年の母と連絡をとるなどして少年の所在発見に努めたが、少年から何ら連絡はなく、他からの情報もなかったため、その所在を発見するに至らないまま経過した。

(1) 平成10年12月29日、担当者が少年宅訪問

(2) 平成11年1月4日、担当者が少年宅訪問

(3)     同月15日、担当者が少年宅訪問

(4)     3月3日、少年の母が担当者宅訪問

(5)     4月3日、少年の母が担当者宅訪問

(6)     5月2日、少年の母が担当者宅訪問

12 平成11年5月21日、保護観察官は、千葉県○○警察署生活安全課から、少年が同県松戸市内の知人宅等を転々としたり野宿をするなどの生活を送り、問題行動を重ねている旨の電話連絡を受けた。

13 同月27日、福島保護観察所長は、福島家庭裁判所いわき支部に引致状を請求し、同日引致状の発付を受けた。

14 同日、福島保護観察所長は、千葉県○○警察署長あて引致嘱託書を送付した。

15 6月1日、保護観察官は、福島保護観察所いわき駐在官事務所において、少年の母に対する質問調書を作成した。

16 同月9日、千葉県○○警察署警察官は、午後0時44分、千葉県松戸市□□×丁目×××番地において少年の引致に着手した。

17 同日、引致着手場所に赴いた福島保護観察所保護観察官は、午後3時00分、同保護観察所いわき駐在官事務所に少年を引致し、同所において少年に対する質問調書を作成した。

18 同日、東北地方更生保護委員会は、福島保護観察所長からの引致結果報告に基づき、戻し収容の申請について審理を開始する旨の決定をした。

別紙(2)

申請の理由

少年は、関東地方更生保護委員会の決定により、その仮退院期間を平成12年4月8日までとして、平成10年12月1日八街少年院から仮退院を許され、現在福島保護観察所の保護観察下にあるところ、平成11年6月9日福島保護観察所いわき駐在官事務所に引致され、同日当委員会から「戻し収容の申請について審理を開始する」旨の決定を受け、同日以降留置期間を平成11年6月18日までとしていわき少年鑑別支所に留置されているものである。

少年は、仮退院に際して、犯罪者予防更生法第34条第2項所定の事項(以下「一般遵守事項」という。)及び同法第31条第3項の規定に基づき関東地方更生保護委員会が定めた事項(以下「特別遵守事項」という。)の遵守を誓約したものであるが、平成11年6月9日付けで、福島保護観察所長から戻し収容の申出がなされたので、関係書類に基づき審理するに、下記1に記載のとおり、遵守すべき事項を遵守していない事実が認められ、かつ、下記2に記載のとおり、引き続き保護観察を実施してその改善更生を図ることは困難な状況にあると認められるので、本件申請を行うものである。

1 遵守事項違反の事実

少年は、

(1) 平成10年12月中旬ころ、あらかじめ、福島保護観察所長の許可を受けることなく、居住すべき住居である福島県いわき市○○町×丁目××の×の母のもとを離れた

(2) 前記(1)のとおり母のもとを離れた後、自己の居所等を明らかにしないまま保護司との連絡、接触を断ち、保護観察から離脱した

(3) 前記(2)のとおり自己の所在を明らかにしなかった間、千葉県松戸市方面において、友人宅やサウナ、モーテル等を転々とする一方、いわゆる風俗店で一時期ビラ配りのアルバイトをした程度で、これといった仕事に就くことをしなかった

ものである。

上記(1)の事実は、一般遵守事項第4号「住居を転じ、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察を行う者の許可を求めること。」に、上記(2)の事実は、特別遵守事項第9号「毎月進んで保護司を訪ね、その指導助言に従うこと。」に、上記(3)の事実は、一般遵守事項第1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること。」に、それぞれ違反する。

2 戻し収容を必要とする理由

少年は、少年院仮退院後、母のもとに帰住したが、わずか半月程度を経たのみで上記(1)及び(2)の遵守事項違反をなし、もって保護観察から離脱した上、上記(3)の遵守事項違反をなしていたものであって、前記風俗店が警察の摘発を受けたこと、最近では野宿生活に近いような状態にあったこと、その他交友関係等に徴すると、半年近くにわたって極めて放縦かつ不健全な生活を続けていたと認められる。

他方、保護者についてみると、母は、その更生を期して少年を引き受けたにもかかわらず、少年が日ならずして母のもとを離れ、その後何ら連絡がないまま今日に至ったことなどから、少年を監護しようとする意欲さえ失い、少年のためには再度の矯正施設収容もやむなしとしており、他の親族による監護等も期待できない状況にある。

次に、仮退院後の保護観察の実施状況をみると、少年が保護観察から離脱したため、指導監督及び補導援護を実施できなかったものであり、その間、少年の所在発見に努めるも、その手掛かりが得られないまま経過したものである。保護観察につき、少年は、深く反省しているとして、「これからはまじめに働き、親とも相談して、保護司の先生の指導を受けて、保護観察を受けたいと思います。」と述べているが、これまでの保護観察経過等、特に、予定された仮退院、保護観察の期間が1年4月余りであったところ、既に半年近くにわたって上記のような生活を続け、少年院収容前に近い生活、行動に立ち戻っていたことを考慮すると、仮に少年がそれなりに反省の様子をみせているとしても、その実行性は到底期待できないところである。

以上のとおり、少年の資質及び生活態度、遵守事項違反の程度並びに保護者の監護能力等を総合検討すると、保護観察の継続によって少年の改善更生を図ることは困難であると言わざるを得ず、この際、少年を少年院に戻して収容することにより、再非行を未然に防止するとともに、再び矯正教育を実施して健全な生活習慣を堅固に身に付けさせ、併せ受入れ環境の調整を図る必要があると認める。

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